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情報提供 みんなで楽しめる映画-視覚障がい者のための音声ガイド体験記-

島本眼科医院 視能訓練士 有若由加理



 映画は子供のころから好きでした。連れて行ってもらう映画館は特別なハレの場でした。照明が落ち始めると、カーテンが左右に開ききるまでに上映が始まり、高鳴る胸の鼓動が最高潮になるのでした。映画を見に行くといいますが、映画鑑賞という言葉があるように映画は視覚だけでなく聴覚も動員しての複合体感です。最近は嗅覚や振動覚、ミストを吹き付ける皮膚感覚なども含んで臨場感をもり上げる映画館まで現れています。映画は自宅でもテレビやDVDで自在に見ることはできますが、やはり映画館での大スクリーンとマルチチャンネル音響、そして何といっても独り暗闇で映画にどっぷり浸れるあの環境は映画館ならではのものでしょう。しかし、映画からの情報が視覚に依存する割合が大きいのは事実です。すると、視覚障がい者は映画を楽しむことはできないのでしょうか。いいえ、聴覚を通じて鑑ることはできます。聴覚障がい者には「字幕」という手があります。同じように視覚障害に対してこれまでもテレビでは一部の番組に音声ガイドが付けられています。
 数年前、バリアフリー映画鑑賞推進団体「City Lights」というグループのことを知りました。これは、音声ガイドというツールを使って視覚に障がいがあっても一緒に映画を楽しむことのできる環境づくりをしている団体です。以下はホームページからの引用です。

「目の不自由な人たちにとって、映画が見えない、字幕が読めないという事実は映画鑑賞をする上でとても大きなバリアになるように思われています。しかし、目が見えていたころに映画を楽しんでいた人たちは、失明後も映画を何とかして楽しみたいと思っています。
 生まれつき見えない人でも映画に興味を持っている人はたくさんいます。
 作品のメッセージはハートで感じるもの。場面、人物の動き、情景、字幕など、目から入る情報を言葉で補う。そんなちょっとしたサポートがあれば、目の不自由な人たちも、映画をイメージしながら楽しむことができます。私たちは、映画の視覚的情報を言葉で補うナレーションのことを“音声ガイド”と呼んでいます。“音声ガイド”は欧米では100館以上の映画館で提供されているサービスですが、日本ではまだほとんど普及していません」

 この団体の音声ガイドはフイルムに同期させてあらかじめ作成した音声情報を、映画館内でFM電波を使って、観客が持参したFMラジオのイヤホンで聴くという方法のようです。この方法では、そこの映画館に行かなければ鑑賞できません。もちろん福井にはそのような映画館はありません。ところが最近、「UD Cast」(ユーデイー キャスト)という別の方法で音声ガイドを聴くことができるようになりました。スマホでそれができる一というのです。
 先日、福井市の映画館にこの音声ガイド付きの映画を観に行きました。山田洋次監督の『家族はつらいよ2』です。あらかじめ自分のスマートフォンにアプリケーションを取り込んでおき、音声はイヤホンで聴きます。上映が始まると進行に連動して女性のナレーターが画面の状況を手短に説明してくれます。せりふの部分は映画館のスピーカーから流れるので、音声ガイドはそれに被らないようになっています。場面の解説のほか、役者の仕草や顔の表情まで説明してくれます。ときどき目を閉じて聴いていましたが、笑うところでは他の観客とのズレはまったくありませんでした。この音声ガイドで印象に残ったのは、映画の冒頭の情景と最後のエンドロールに入る前の画面説明が的確で、目を閉じている方がよりイメージが膨らんだことです。ただ、登場人物が多い場合は前もって予習しておいた方が良いかもしれません。何人もの会話をせりふの声だけで聞き分けるのは難しい場面もありました。
 音声ガイドをつけた映画があるという情報は、福井のスマートサイト「羽二重ねっと」のメールマガジンで先日知りました。UD Castといいます。用意するものはスマホやタブレットそしてUD Castというアプリのみです。方法は①「UD Cast」をインストール。②「UD Cast」を開き、「映画、映像」を選択。「音声ガイド」と「劇場公開中」を選択。③劇場公開中の映画から、観たい作品を選択し、音声ガイドをダウンロード。④あとは映画館へ行って、再度②から③まで実行し、音声ガイドをクリックします。テストアナウンスが流れますので音量を調整しておきます。映画が始まると、自動的に同期がはじまりイヤホンからは音声ガイドが聞こえてきます。最近公開されたUD Cast対応の映画には、「家族はつらいと2」のほか「チアダン」「相棒」「ONEPIECE」などがあります。
 今年のカンヌ映画祭で、河瀬直美監督の『光』がエキュメニカル賞を受賞Lました。この映画は、視覚障がい者のために映画を説明する音声ガイドの仕事をする女性と、視力を失いつつあるカメラマンの物語です。監督が前作公開時、音声ガイドの存在を知り、その仕事に興味を持ったからだそうです。この映画にもUD Castによる音声ガイドが付けられています。
UD Cast付きの映画は今のところスマホやタブレットで、個々にアプリをダウンロードする必要がありますが、そんな端末がなくてもUD Castからの音声ガイド情報を館内だけの小規模FM放送から発信して観客がFMラジオで聞くというやり方はどうでしょう。映画館に貸し出し専用FMラジオとイヤホンさえあればいいのです。上映に協力してくれる映画館が福井にあったらいいなと考えています。
参考:
 UD Cast http://udcast.net/
 羽二重ねっと http://Www.habutae-net.jp/



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